お客様のエピソード 家族になろうと告げた日
僕には大切にしているパートナーがいる。そのパートナーには6歳の子供がいてまだ入籍を済ませていない。子供に初めて会ったとき僕は緊張してばっかりだったが、今ではすっかり懐いてくれている。子供の小学校入学を期に、父親になることを伝えるつもりだ。パートナーにはそのことを先日伝えて承知してもらっている。
家族になる宣言の場として、すべてを見渡せる景色の中でと決めていた。自分たちだけの空間を持てるヘリの中なら実現すると思った。
なぜか…? 僕には子供にはっきりと思いが伝わるかの自信がなく、思いを伝えるキッカケとして子供が間違いなく喜ぶシチュエーションがどうしても欲しかったからだ。
当日は曇っていたが夜景は曇りでも十分綺麗ですとスタッフから言われ少々安心した。パートナーは前の席へ、僕と子供は後ろの席に乗ってヘリは離陸した。機内は思っていたよりうるさくない。子供は予想通りに喜んでいたのでしばらく様子を見ていたい。
着陸のため高度が下がり始めたタイミングを見計い、僕は子供に「パパになるけど、いいかな?」と少し大きな声で思いを告げた。子供はきょとんとした表情で「だってパパでしょ?」と言葉が返ってきた。
思いっきり拍子抜けしたままヘリは着陸し僕たちが降りた時、前席にいたパートナーは涙ぐみながら微笑んでいた。
彼女の苦労は僕が一番知っているつもりだ。だからこそ、今日のこの気持ちを大切にしたい。
僕はこの大切な日をいつまでも一生忘れずに幸せな家族になろうと、一番高いところから見える景色から誓うことができた。この先、家族皆が幾つになろうと今日の事を皆で思い出していきたい。「かっこいいお父さん」と子供にいつまでも言われる様に頑張っていきたい。
お客様のエピソード 母が持ってきたもの
私は社会人になったばかりの娘と78歳になる母と暮らしている。娘は初めて支給されたお給料で母と私にプレゼントしたいものがあると言い出した。それはヘリコプターで横浜の夜景を見せるという、母はもちろん、私でも思いもしなかったプレゼントであった。
横浜育ちの私たちはこの街を空から眺めたことが確かになかった。昨年他界した父は船乗りで晩年は水先案内として港で働いていた。最近はすっかり出歩かなくなった母を空から横浜の街を見せて元気になってもらえればと、娘の計らいだった。足腰が少し弱くなってきている母だが久しぶりの外出で楽しそうだ。娘からのプレゼントがなければこうして母が楽しく出歩く機会はなかったと思う。
母はこっそりと父の写真を風呂敷に包んで持ってきていた。ヘリに乗る前は旅客機と同じように保安検査があり不安がる母に代わり、娘が「写真は持ち込みできますか?」とスタッフに尋ね、意味を察したのか「存分に景色を見せてあげて下さい」と言われ母は安心した。
飛行中、前席に座った母が父の写真に何か話しかけている様子が見えた。これが私たちの住んでいる街、父が働いていた港…。空から見た港街の、無数に輝くひとつひとつの明かりを眺めながら、そこには人々のそれぞれ営みがあるのだと思ったら胸が熱くなった。娘はひたすら機内の私たちの様子と夜景を交互にスマホで動画を撮っていた。
あっという間ではあったが楽しかったフライトを終え、帰路につくとき私は母に「お父さんと何を話していたの?」と聞いてみた。母は「お父さん、頑張って働いてくれて有難う。」と話していたらしい。
「―― 働いてくれて有難う…。」私はしっかりと父の遺志を継いでいる娘に感謝の気持ちでいっぱいになった。
母は帰りの電車の中で娘が撮ったスマホの画面を何度も何度も見ては笑みを浮かべていた。娘の成長と家族への感謝の気持ちで心が温った日を忘れず、これからも娘を応援していきたいと心から思った。
お客様のエピソード 手を繋いだ温かさは変わらず…夫の定年退職祝い
一家の大黒柱として家族を支えてくれた夫が先日定年で退職し、「今までお疲れ様」と感謝の思いを込めてプレゼントすることを考えていた。夫の人生において大きな節目となるので、彼が間違いなく歓喜する特別なお祝いのプレゼントとしてヘリコプターの夜景飛行を、夫には内緒で予約をした。当日はふたりで久しぶりに出掛け、横浜・みなとみらいの街を散策したあとに夜景を見せる予定だ。
こどもは独立して遠くに住んでいて、今は私たちふたりで暮らしている。仕事をしている私は夫と一緒に出掛ける機会があまりなく、こういった節目くらいはふたりで出掛けて特別な1日にしようと決めていた。
久しぶりに訪れたみなとみらい。公園の端の方にあるヘリポートへ、スマホのナビを頼りに集合時間より5分ほど早く到着した。夫は、本物のヘリコプターを目の当たりにして最初は理解が追い付いていない様子であった。少し経ってから、「本当に乗れるの?」と子供のように目を輝かせていた。次々とお客様を乗せてヘリは離陸と着陸を繰り返し、夢中になって見ているうちに私たちの苗字が呼ばれた。案内され座席につき、シートベルトをして扉がしまると機体はふわりと宙を上がり、そのまま上昇した。
明らかに飛行機とは違う感覚に私たちは興奮を覚え、10分のフライトでは短いかなと思ったが、離陸してすぐに飛び込んでくる港の絶景、宝石箱のような夜景が、まるで私たちをお祝いしているかのようにも感じられた。
すぐとなりに座っている夫が子供みたいに大喜びしている様子を見て、私たち家族を支えてくれた大国柱に心から感謝の気持ちを込めて、平凡でもいい、これからも幸せに満ちた人生を進めていきたいと強く願わずにいられなかった。
大満足なプレゼントになり、サプライズは大成功した!
フライトを終え、ヘリポートから次に予約しておいたディナーに向かう道で、私が照れてしまうほど、夫は何度も「ありがとう」と言ってくれた。普段は空気の様に聞こえてくる夫の言葉と違い、まるで私たちが出会って初めてデートした時を思い出すような声の「ありがとう」に聞こえ、私たちの想いや気持ちが、あの頃から始まり、これからも続けられていくものと、そう確信した。
今日、私たちが空から見た街の景色は、夫と出会って初めて歩いた頃とはずいぶんと変わってしまったが、私たちの気持ちはあの頃からずっと変わっていない。ふいに夫から手を差し出され、驚きながらもその手をしっかりと繋ぎ、あの頃の若い私たちに戻った様な気がした。
定年を迎えた夫への感謝をこめて「これからもよろしくね」とそっと囁き、幸せの笑みにあふれた夫の顔を私は一生忘れない。